研修OBを訪ねて 修了者からのメッセージ(取材編) 愛知ステーブル

2010年06月01日

愛知ステーブル    (北海道浦河郡浦河町)

近藤 秀典(第1期修了者)

 今回の取材にご協力いただいたのは当センターの育成調教技術者養成研修の第1期修了者である近藤秀典さんです。近藤さんは研修修了後に軽種馬の種馬場に就労した後に、海外(アイルランドとアメリカ)や浦河町の育成牧場等多くの現場を体験し、現在は自らが開業した愛知ステーブルの代表を務めています。そこで、馬の世界に飛び込んでどういうものを得たか、また、馬づくりにおいて心掛けていることなどについてお伺いしましたので紹介します。

近藤秀典さん

 

 

馬の世界に飛び込んだ理由、そして開業まで・・・

 
 「ただ北海道に来たかったんです・・・。」開口一番そう話し始めた近藤さんは、「馬は、北海道に行くために親を説得する一つの口実だった。高校の先輩から誘われたのもあったけれど、北海道に憧れていたんだよね。本州の人間て、一回くらい遠い所に行ってみたい願望があるでしょ?」と、馬の世界に飛び込んだ理由を教えてくれました。また、研修中の特に印象に残っている思い出は、走路での騎乗訓練で初めて馬が引っかかった時で『あ、馬ってこんなに止まらないのか。』と感じたとのとこです。第一期生で当時は寮生活では無かったため、すごく自由だったともおっしゃっていました。研修用のワゴンで馬券を買いに行って怒られたこともあるとかで、今となっては時効ですね!とにかく、馬に関係する仕事がしたい一心で研修を受けたと思っていたのですが、どうやら違う様子。そんな近藤さんが馬にのめり込んだきっかけは、BTC研修修了後、種馬場で働いていた時のことだったそうです。

 

『種牡馬の仕事も楽しいけれど・・・自分は馬に乗る練習をしてきたのに、種牡馬の運動で少し乗る位じゃもったいないな。』この思いがそれからの馬一色の生活へつながっていったようです。アイルランド、アメリカと海外の馬文化に触れ、世界を飛び回っていた近藤さんは日本に戻ってからは浦河の育成牧場へ就職しました。

  「これでもかというくらい働いたし馬にも乗った。あの頃が一番やせていたな、今では10kgくらい増えちゃったけどね(笑)。周りからも心配されていたくらい。」と、振り返っておられました。

 

浦河の育成牧場に入社して1年程たった頃に出会ったのが“ルゼル”という重賞競走勝馬。育成者として半人前だったこともあったが、背中を感じ取るのがすごく難しい馬だったし、怪我にすごく悩まされた馬だったと当時を振り返りました。しかし、このルゼルに関われたことが大きな財産になっているとも言います。『何とかして復帰させたい、勝たせたい』という想いを、ルゼルの関係者全員が持っていることを身をもって感じ、一頭の馬を通しての人の繋がりを学べたことが、この馬が重賞競走勝馬であったからというだけではない思い出として残っているということでした。

 

そして、近藤さんが愛知ステーブルを開業するきっかけもこの育成牧場にありました。長年勤めた牧場では、馬に乗ることだけでなく、マネジメントも学びました。牧場長として馬の管理をしていく中で、「自分がこのまま同じポジションにいたら、自分より下の立場の従業員が今以上に育って行かないなと感じたのです。後は、BTCという環境があって調教施設を持たなくても馬の調教ができるし、諸先輩方が牧場を開業していくのを見ていて、自分でもやってみたいと思いました。」ここから愛知ステーブルが始まります。

開業して

 
 ここまでのインタビューで何度も“人との関わり・繋がり”と言う言葉がでてきたのですが、開業して良かったこと・嬉しかったことは?との質問にも、「場長として働いている立場では出会えなかった方とも出会えるようになったことかな。馬を通じて、きっと今まででは話す機会が無いだろうなという年代の方ともお話ができて、色々なことを知るきっかけになるんだ。」と、やはり人との繋がりができることが開業して良かったとのことでした。

 

 その代わり、やはり大変なのも“人”のようで、従業員の心を読みとるのは難しいと頭を悩ませています。普段と雰囲気が違うと感じた時、話しを聞いたり、試行錯誤しても辞めてしまう従業員はおり、人を雇うことの大変さを痛感しています。近藤さんは「会社のために働くのでは無く、自分のために働いて欲しい。」とおっしゃっていました。

 

馬づくり、人づくり、そしてこれからの目標

 
 

開業当初、愛知ステーブルはここまで馬を仕上げられるというアピールをすることに必死だったと言います。しかし、今は馬の可能性をつぶさない様、つぎのステージに繋がる様に(成長できる余力を残しながら)と考えながら馬づくりに励んでいる近藤さん。「基本はすごく大切にしますね、特に馴致初期は限られた従業員しか乗せないかな。始めで躓いてしまうと後で大変だから。だからと言って、万人が乗れる馬を作ろうとは思っていない。競走馬はアスリートだから、簡単に乗れるような馬じゃなくてもいいと考えているんだ。馴致を終えた馬はいろんな従業員に乗ってもらうけどね。」

 

 愛知ステーブルでは色々な馬の背中を知ることが出来そう・・・そんなことを思いながら、どんな従業員に牧場に入ってもらいたいか訊ねると、「自分の将来のために今何をすべきか分かっている人がいいかな。夢は○○です!!じゃなくて、夢のために今何をするかってこと。あとは、明るい人。よく笑う人は馬も幸せに出来ると思う。」とのこと。人同士でも、いつも怒っている人より、笑っている人の方が気持ちが良いですよね。

 

そして、これからの近藤さんの目標を聞きました。やはり目指すのは“G1競走で優勝する馬を作ること”だそうです。重賞競走勝馬には携わったことのある近藤さんですが、G1馬に携わったことがまだ無いそうで、その気持ちがとても強いとおっしゃっていました。それ以外でも、今まで牧場を始める前も含め関わってきた方々に恩返しするためにも強い馬を作っていきたいと、熱い想いを聞かせていただきました。

 

趣味など・・・

 
 
「趣味は・・・馬に乗ることかなぁ。仕事が趣味みたいな感じかな。でも、お酒は結構好きで飲むかな。」心から馬が大好きな近藤さんは、馬に沢山の時間を注いで来たためか、あまり趣味といえる物が無い。しかし、家族と一緒に過ごす時間を取るように心掛け、お子さんともよく遊ぶ様で、このときばかりはすっかり父親の顔になっていました。沢山遊んで家族サービスをしてくださいね!

今回、愛知ステーブルへ取材に行き、牧場の雰囲気も非常に和気藹々としていて楽しそうという印象が強く残りました。コンサイナー業務・育成・休養馬と各ステージを幅広く行っており、様々なことに次々とチャレンジしていく愛知ステーブルでは、今後更に活躍する馬を輩出してくれることと思います。

是非、競馬界を盛り上げるようなスターホースを生み出すべく、頑張ってください。

(平成22年10月取材M.Y.)  
 

馬のチェックに余念がありません

人とのつながり電話連絡も多く忙しそうです